ときどき買いに行く、手作りの豆腐屋があります。
ボクの家から歩いて6、7分。ここの店主はおそろしく無愛想で、ボクが買い物を選んでカウンターの上に置くと、それをビニール袋に包み、あっちのほうを向いたまま黙って釣銭をよこします。いまだかって、一度も口をきいたことがありません。
味のほうですが、手作りということで最初は期待したのですが、正直言ってさほど旨いとは思えません。もっともボクはただの豆腐好きであって、特別に良い舌を持っているわけではないので、何とも言えませんが。
ところが、ある食べ方をしたとき、はっきりと他の豆腐との違いが現れました。
まず、重しをして一時間ほど水抜きをします。それから、5、6ミリ幅くらいにスライスして、オリーブオイルをちょっと垂らし、塩(天日干しのもの)をパラっと振りかける。これだけです。

これをやった時、スーパーで買ってきた豆腐との違いがわかりました。チーズのような食感、そして甘味が増幅して現れました。これは旨い。以降これを食べたくなったら、ボクはこの店に足を運んでいます。
さて今日もこの店に行きますと、店の中に一人の男性客がおりました。客というより、どうやら店主の友人か知り合いのようです。
いつものようにボクが勘定をしようとすると、なんと店主が初めて「ありがとう」と言ったのです。
えーっと、ボクは内心びっくりしながら店を出たのですが、考えてみるとあれは、知り合いの男性客にアピールしたのでしょう。
「おれだって、客に挨拶くらいはしてるんだぜ」と、そういいたかったのでしょう。
くっくっ、あの「ありがとう」はよかったな。帰り道、ボクは笑いが止まりませんでした。