豆腐 七丁

 京都に住んでいました。ボクが大学生のときです。
学校の一年先輩で、Y子さんという人がいました。どういうわけか、ちょっと気が合ったのでときどき話をしていました。
 えっ、男女の関係? いえ、この人はそういうのとは、ぜんぜん縁がない感じの人で‥‥と思っていたのは、実はボクだけだったということを、もうすぐ知ることになります。

 あっ、そうだ、思い出した。ボクがY子さんと親しくなったのは、実験の手伝いをしていたからでした。Y子さんは心理学の実験のため、ラットを飼育していました。
 ケージの中に入れられたラットは、どれがどれだかわからないので、識別のために、耳にハサミでチョンとカットを入れます。こうして、「右耳ふたつカットちゃん」とか、「左耳V字カットちゃん」などと呼んで、区別していたのです。ボクは、その手伝いをしていました。
 さてあるとき、ボクが豆腐好きだということをY子さんに言ったことがあります。すると、Y子さん、
「あら、わたしもよ~。よしっ、明日の夕方うちにいらっしゃい」 
Y子さん、とても強引なところがあります。

 Y子さんは、四条烏丸(たしか)の古い町屋を借りて住んでいました。「旨い豆腐だぞ~。さっ、食べよ」
 食卓には、湯豆腐の用意が。土間には、水を張ったバケツの中に、豆腐が浮いています。

「何丁あるの?」
「いちおう、七丁買ってきたよ。おぬし、食えるな」 

 うー、一人三丁半かあ。さすがに、これだけ食べた経験はありませんが、なんとかなるでしょう。野菜も鶏肉も椎茸も、何にもなし。文字通りの、湯、豆腐です。
 四丁目までは、快適にとばしました。お酒も、一升瓶を用意してくれましたが、三分の一くらいは空いています。五丁目くらいから、ペースが落ちました。

「わたしね、パンツ2枚しか持ってないのよ~。だから、毎日洗って一日交替ではいてるのよ~」
 Y子さん、聞きもしないのに、変なことをしゃべりだします。
「洗うのは、ほらあのバケツよ~」と、
あと豆腐が一丁残っているバケツを指さしました。
え~、Y子さん、そりゃないよー。

 そのときです。
「ただいま~」ガラガラっと、表の引き戸が開いて男の声。
「あっ、わたしの相方が帰ってきたわ」
え~、そんなの聞いてないよー。

「おー、キミ来とったのか」
 見ると、ボクもよく知っている大学の講師のWさんでした。
「こ、こんばんは。おじゃましてます」と声を出すのが、精一杯。
(後で知れたことですが、Y子さんとWさんは、このとき婚約中で、すでに一緒に暮らしていたのでした)

「ちょうどよかった。豆腐、買ってきたぞー」

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2件のコメント

  1. 豆腐 七丁の絵は3juroさんが描かれたのものですか?
    豆腐のように味わいのあるいい絵ですね。
    文章もうまいな〜さすがです。
    これからゆっくりと読ませてもらいます。

    1. ご無沙汰しています。お変わりないですか。
      ずっと、お伺いしたいなと思いつつ、なかなか行けないんですよー。
      なにせ生活範囲が半径1kmくらいなので、ストレスがたまり、
      このようなことを始めました。
      よろしければ、ご愛読のほどをお願いいたします。
      イラストも、自作です。

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