東海道四谷怪談


 歌舞伎の怪談物といえば、まず真っ先に名前があがる名作演目です。さる3月27日にNHKテレビで、録画放送されました。なんと今回は、片岡仁左衛門の伊右衛門、坂東玉三郎のお岩という、超豪華ゴールデンスペシャル配役なんです。おそらくは、もう二度と見られないでしょうなあ。

 ここでちょっと内輪のお話なんですが、ボクの母親(貞子といいます)は、ボクがおなかの中にいるときに四谷怪談を見に行ったというんです。それで姑さんに「あんた、いったい何考えてんねん」と、こっぴどく叱られたそうです。
 そらそうですわな。昭和の22年といえば、いまより何倍も胎教といったことにはやかましかったでしょうに。
 「さて、どんな子供が生まれてくるのやら」と、周りはみな心配したといいます。
 しかし、ボクはこの話を案外気に入っています。貞子さんも、この話をするときは、何だか楽しそうでした。

 ご存じの方も多いと思いますが、四谷怪談のあらすじをザっとご案内しましょう。

《四谷町伊右衛門浪宅の場》

民谷伊右衛門(たみやいえもん)は、元塩谷家の家来。この狂言は、忠臣蔵外伝ということになっている。

 浪人民谷伊右衛門(片岡仁左衛門)は、不良浪人で実に悪いヤツなんですが、イケメンでそこそこ腕っぷしも強く教養もありそうにみえる。外面はなかなかに魅力的な男です。ましてや、演じるのが仁左衛門丈とくれば、どうです、傘貼りの内職中の姿だって、カッコいいでしょう?
 女房のお岩(坂東玉三郎)は産後の肥立ちがわるく、このところ病がち。それを見て伊右衛門は、「ちぇ、鬱陶しいやつだ」と内心思っているわけです。
 民谷家の隣人に伊藤喜兵衛というお金持ちの老人がいます。この喜兵衛の孫娘お梅が、伊右衛門に一目ぼれ。何とか一緒になりたいものと、恋情を募らせます。その伊藤家から使者がやってきました。お岩さんへのお見舞いと、薬を置いて帰ります。その薬を飲んだお岩さん、顔半面が腫れあがり、二眼と見られぬ醜い姿に。鏡を見て「あれ~」と仰天するお岩さん。

《伊藤家内の場》

お岩と別れてお梅をもらってくれとは、何とも勝手な頼みごとをする伊藤喜兵衛。

 伊藤家に招かれた伊右衛門は、喜兵衛から、お岩と別れお梅と一緒になってくれと頼まれます。喜兵衛は、孫娘のお梅を溺愛しているのです。
 いったんは断った伊右衛門ですが、チャリンと小判の音を聞かされ、「就職の世話もしてあげるよ」とささやかれ、さらには、さっきお岩さんに届けた薬は毒薬だよと聞かされて、とうとう承諾する。(内心ニンマリ)
 家に帰った伊右衛門、お岩の顔を見てぞっとします。「オレ、お梅といっしょになるよって、バイバイ」と、非情なこと。
 お岩は悶え苦しんだ挙句、置いてあった刀が首に刺さって死んでしまいます。伊右衛門は、お岩と小平の遺体を戸板の裏表に括り付けて川に流します。(小平は下男。盗みを働いたというので殺してしまう)伊右衛門は伊藤家の婿に入りますが、婚礼の晩に幽霊を見て錯乱し、梅と喜兵衛を殺害、逃亡します。

《本所砂村隠亡堀の場》

堀を流れてくる戸板。縄で引っ張っては感じが出ないので、お弟子さんが背中に乗せて運んでくるそうだ。

 退屈しのぎに夜釣りにやっていた伊右衛門。どこかから、自分を呼ぶ声が聞こえます。不審に思い川面を見ると、あの戸板が‥。
 戸板を引き寄せてみると、お岩の幽霊が「うらめしや~」。くるりと戸板が裏返って、今度は小平の幽霊。これが有名な「戸板返し」の仕掛けです。
 言い忘れましたが、この芝居の作者は、あの鶴屋南北。このときお岩を演じたのは尾上菊五郎ですが、戸板返しの仕掛けがどうも呑み込めない。そこで、南北が菊五郎宅へ説明に行ったそうです。南北が懐から紙で作った戸板返しの模型を取り出して説明すると、菊五郎ようやく腑に落ちて「いいね」といったとか。
 このあと、芝居はもう少し続きますが、今回の放送はここまででした。ボクは怖がりなので、怪談はあまり好むところではありませんが、仁左衛門さんはやっぱりよろしますなあ。「色悪」の魅力たっぷりです。御年78歳。お元気なうちに、もういっぺんくらい、観に行きたいものですが。 

ディスカッションに参加

1件のコメント

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です