『PACHINKO』久方ぶりの小説

『PACHINKO』上・下 ミン・ジン・リー 池田真紀子(訳) 文藝春秋 2020年7月 

 1910年、日本が大韓帝国を併合した。その頃。
 港町釜山のすぐ南にある幅8㎞ほどの小さな島、影島に、倹約家で辛抱強い働き者の漁師夫婦が住んでいた。
 夫婦が暮らしている借家は、面積45平方メートル。屋内はふすまで三つの空間に仕切られている。金持ちの大家がまたも家賃を引き上げるという。仕方なく、夫婦は奥の小さな部屋で寝起きし、空いた部屋には下宿人を置くことにした。夫婦の間には、フニと名付けられた男の子が一人。フニは成人し、見合いをして妻を娶った。フニの若い妻ヤンジンは、何度も流産を繰り返したのち、ようやく健康な娘ソンジャを産む。
 ソンジャは16歳のとき、憬れの先輩コ・ハンスにキノコ狩りに誘われ、森の中で身を任せてしまう。ソンジャは妊娠し、コ・ハンスからのプロポーズを期待したが、答えは「(自分は既婚者で)結婚はできないが面倒は見る」というものだった。ソンジャは申し出を強く拒否し、1人で子供を産む決意をする。 

 この本を読み始めたのは、8月の14日でした。思った以上に面白く、スラスラと読めたので、上巻は一日でクリア。翌15日には下巻も読んでしまう予定だったのです。ところが、あの浸水さわぎです。それどころではなくなり、やっと今読み終えた次第です。 
 ソンジャは、ゴッドマザーとか肝っ玉母さんといったタイプではありませんが、正しいと思ったことを迷いなく実行する芯の強さを持っています。揺るぎがない。ぶれない。
 ソンジャはその後若い牧師イサクと結婚し、二人の息子をもうけます。長男ノアはコ・ハンスとの間の子。次男モーザスはイサクとの間にできた子どもです。モーザスは、純情すぎるほどまっすぐな性格で、それだけに喧嘩っ早く、しばしば問題を起こします。そんなモーザスを救ってくれたのが、大阪のパチンコチェーンのオーナーの後藤。後藤はモーザスの真面目さと、隠れた経営能力を高く買い、チェーン内で次々と昇進させます。
 あ、言い忘れました。舞台はもう大阪です。鶴橋、猪飼野。物語は、モーザスの息子のソロモンの時代まで、ソンジャを中心に5代にわたる年代記となっています。

ボクがパチンコ店に入ったのは学生時代だから、50年前か。その頃のパチンコは、玉を一個ずつ穴に入れるタイプで、けっこうテクニックがいるものだった。この本には、あまりパチンコの話は出てこない。


 鶴橋、猪飼野といえば、ボクもまんざら縁がないわけでもありません。鶴橋は印刷会社が多いところで、ボクはしょっちゅう校正に出かけておりました。ときには徹夜になることも。また、ボクの父親は板ガラスを扱う会社を経営しておりましたが、生野区南巽に工場があり、学校が夏休みになると、毎日手伝いに行かされたものです。この辺りも、在日の人たちの多い地域でした。

 ここで、素朴な疑問。ここに登場する人たちはいわゆる在日コリアンと呼ばれる人々ですが、決して強制移住させられたわけではありません。異国である日本へ、大阪へ、自主的にやってきて、様々な困難に出合い、たくましく生き抜きます。 
 でもなぜ、日本へ大阪へ? 同じ韓国内の都市で職を探す方法はなかったのか? こんな簡単な(?)問いに、ボクは答えることができません。やはりこの辺りのこと、避けてきたのかもしれませんね。そんなことに気づかせてくれた一冊でもありました。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です