立花隆さんが4月30日に亡くなっていたと、今日(6月23日)近親者から発表されました。
80歳。死因は急性冠症候群。
ボクが立花さんの本と出会ったのは、たしか一冊目が『アメリカ性革命報告』。どんな内容だったかすっかり忘れましたが、すっごく面白かったことだけは覚えています。
そして次に読んだ『宇宙からの帰還』で、決定的に立花ファンになってしまいました。
それから読んだ本は、
『「知」のソフトウェア 』
『脳死』
『同時代を撃つ 情報ウオッチング』
『サイエンス・ナウ』
『サル学の現在』
『臨死体験』
『ぼくはこんな本を読んできた』
『インターネット探検』
『立花隆の同時代ノート』
『天皇と東大』
(クリックしてご覧ください)
『小林・益川理論の証明』
『死はこわくない』‥‥
で、本棚から、立花本を探してみたのですが、出てきたのはこれ、
『宇宙からの帰還』一冊だけでした。
引越しの時、処分してしまったんですね。もったいなかったかな?
まあ、仕方がないでしょう。
では、一冊だけ残った『宇宙からの帰還』を、ちょっとだけ読んでみることにしましょう。
ごらんのとおり、ずいぶんと付箋が貼ってあるでしょう。熱心に読んだんだねえ。この本の発行は、昭和58年。ボク、35歳。若かったね。
う~ん、これは、いやはや、やっぱり面白い。例によって、ボクは本の内容をすっかり忘れていましたが、いまパラパラと拾い読みをしただけで、1ページ1ページが掴んできますねえ。
少しだけ、エピソードをご紹介しましょう。
この本のメインメッセージは、「宇宙体験は、宇宙飛行士たちに帰還後どんな影響を与えたか?」というもの。
たとえば、アポロ15号のジム・アーウィンは、とりわけ信仰心の強い人ではなかったのに、宇宙から帰ると、月面上で神の臨在を感じたとして、NASAをやめて伝道者になってしまいました。この関係の話はもちろん面白いのですが、いまはやめておきます。
かわりに、事故の話をします。
この本を読んで(パラパラ見て)驚いたことの一つは、宇宙船の中では事故がしょっちゅう起こっているということです。
アポロ15号が月に向かって飛行を続ける中で、二つの事故が起きました。
一つは、月着陸船の計器のガラスが、何らかの衝撃で割れてしまいました。計器の機能自体には問題はなく、地上でなら落ちたガラスを掃除すればすむのです。
しかし宇宙では違います。ガラス破片は落下せず、そこらじゅうを漂っているのです。うっかりすると、空気と一緒に吸い込んで、肺を傷つけてしまいます。これを処理する唯一の方法は、粘着テープでガラス片をくっつけて回ること。三人の飛行士たちは、この作業を二日間続けたのでした。
次に起きた事故は、水の消毒装置から水漏れが起きたことでした。
漏れた水はボール状になって、どんどん膨らんでいきます。水は貴重品なので、深刻な事態です。宇宙飛行士たちは、いくつかの方法で修理を試みましたが、うまくいきません。
その間に、ヒューストンでは専門家が対策を検討し、こういう指示をだしました。
「道具箱から、道具ナンバー3と、道具Wを取り出せ。ナンバー3をWのラチェット歯車に取りつけよ。次にそれを塩素注入口の六角形の穴に突っ込み、しっかり押しつけながら、四分の一回転させろ」
この通りにすると、水漏れはピタリと止まったのでした。宇宙船側では原因も解決方法もわからなかったのに、ヒューストン側ではそのどちらも解明できた。それくらい、宇宙飛行は地上でよく管理されているのです。
アポロ15号。月面に降りたった宇宙飛行士。
アポロ14号では、二時間後に月面着陸を開始しようというときに、突然コンピュータパネルに「計画中止」のシグナルが出た。これを見て、宇宙飛行士もヒューストンもあわてふためきました。
このシグナルが出ると、降下は自動的に不可能になるのですが、いくら調べても原因がわからないのです。
そのとき飛行士のひとりミッチェルは、ふと、子供の頃、ラジオが故障したときによくやったように、コンピュータの横腹を手でドンと叩いてみました。すると、なんと「計画中止」のシグナルが消えたではありませんか。
こうしてギリギリの状況でしたが、月面着陸を行うことができました。
日本のはやぶさ1号もそうでしたが、宇宙ミッションは、次々に起こるアクシデントとの闘いなんだなあと、あらためて思いました。
さて、新聞記事にもあるとおり、立花さんは「知の巨人」と言われています。博覧強記。他にも「知の巨人」と呼ばれている人の顔が3、4人浮かびますが、立花さんのような取材力を併せ持つ人は、見当たりません。
これこそが、立花隆の仕事を際立たせている力の、源泉といえるのではないでしょうか。
「パートジャーナリスト、パートヒストリアンでなければならない」と立花さんは言う。
この本の「むすび」の中で、立花さんはこんなことを書いています。
私がこれまでにしてきたさまざまな仕事の中で、この宇宙飛行士たちとのインタビューほど知的に刺激的であった仕事は数少ない。(中略)宇宙飛行士たちにとってもそうであったらしい。かなり多くの人が、「こんな面白いインタビューははじめてだ」「こんなことを聞かれたのははじめてだ。よく聞いてくれた」「いままで人に充分伝えられなかたことをやっと伝えられたような気がする」などといってくれた。
宇宙飛行士たちは、自身さえおぼろげにしか理解していなかった、体験の「意味」が明らかになったことに感動し、感謝したのでしょう。立花さんの取材力、中でも「準備の周到さ」「視点の良さ」をボクは感じます。